インタビュー/レポート

焼肉のタレでお肉はやわらかくなる?

今年に入って、輸入肉の規制緩和により、お店で手に入れることができるお肉が徐々に増えつつあります。そこで、今まで以上にお肉をおいしく味わうために、よりやわらかく、しかもおいしく食べる方法を、焼肉のタレを使って実験しました。

ふっくらやわらかお肉の決め手は、「焼肉のタレ」(フルーツ入り)に漬けてもみこむことだった!

今回、豚肉と牛肉を用いて、焼肉のタレ(フルーツ入り)の効果を実験しました。その結果、お肉は焼肉のタレ(フルーツ入り)に漬けこみ、もみこんだ方がより「やわらかく」、「おいしく」なることが分かりました。

<実験結果>

実験では、豚肉・牛肉どちらのお肉の場合でも、大きく差をつけて焼肉のタレ(フルーツ入り)に漬けこんだ方がやわらかく、おいしく感じられるという結果が出ています。とりわけ豚肉の「やわらかさ」については、「タレに漬けたお肉」の方がやわらかいと感じた実験参加者が100%となりました。この結果について、監修の佐藤秀美先生に解説してもらいました。

※「焼肉のタレ」の成分は、どれもが同じというわけではありませんが、今回の実験では市販の焼肉のタレに一般的に含まれる「糖」「油」「フルーツ」の3成分の機能に着目しました。

【佐藤秀美先生による解説】

「タレに漬けた肉」がやわらかくなる理由として、タレに含まれる「糖」、「フルーツ」、「油」の3成分の作用が考えられます。

「糖」には親水性(水分子と結びつきやすい性質)があります。糖が肉の筋組織に浸透すると、そこで水を抱え込んで肉の保水性を高める一方で、たんぱく質の熱変性(加熱によるたんぱく質の凝固)をある程度抑えるため、肉はやわらかく焼き上がります。

「フルーツ」には有機酸(酸味の元)が含まれています。肉は酸性下で保水性が高まること、また酸性下で働くたんぱく質分解酵素を持つことが知られています。つまり、肉をフルーツに漬けると、その有機酸の作用で肉がやわらかくなると考えられます。

「油」の比熱*は小さく、熱くなったフライパンの熱を速やかに肉表面に伝えます。肉の表面温度が急激に上昇すると、表面のたんぱく質の熱凝固が速やかに進み、表面組織が緻密になります。こうなると、フライパンの熱は肉の内部に伝わりにくくなり、内部温度が緩やかに上昇するため、「65℃焼き」を実現しやすくなります。

*比熱・・・1gの物質を1℃上げるのに必要な熱量。比熱が小さいほど、温度は上がりやすい。

※実験に使用した焼肉のタレは、糖・油に加えてフルーツが全容量の1/3程度含まれているため、有機酸も多くなっています。

<実験詳細>
試験日:2013年4月18日
試験方法:官能調査法(官能パネル24名による「やわらかさ」「おいしさ」評価 )

【対象サンプル(肉)】
●豚(ロース) :厚さ・8mm/大きさ:一口サイズ(2.5×3cm)
●牛(モモ) :厚さ・5mm/大きさ:一口サイズ( 5×3cm)

【使用したタレの組成】
果実類(全容量の1/3程度)、醤油、砂糖、アミノ酸液、還元水あめ、蜂蜜、発酵調味料、食塩、ごま、りんご酢、オニオンエキス、蛋白加水分解物、野菜類、ごま油、香辛料、ポークエキス

【漬けこみ方法】
・ビニールにタレを入れる(肉重量の25%)
・一定の高さから10回落下(もみこみと同じ効果をもたらすため/ばらつきが出ないよう落下で実施)→その後、豚は1時間冷蔵/牛は15分冷蔵

【焼き方】
オーブントースターのオーブンダイヤル(設定220℃)で豚は4分30秒/牛は3分加熱

【パネルへの提供方法】
素焼きの肉及び漬け込み肉はオーブンから出した後、味の差を緩和させるため、焼肉のタレに一度漬けてから提供
●監修:佐藤秀美氏 ●協力:エバラ食品工業

<特別コラム>

お肉をやわらかくも、香ばしくジューシーにも!
佐藤先生直伝!上手な焼肉のタレ活用法

食べ物の研究だけでなく、2人のお子さんを持つ母親としても日々料理作りに励んでいる佐藤先生。その先生が愛用している調味料の一つが、実は「焼肉のタレ」。常に自宅にストックされているとか。実際にご家庭でどのように活用されているのか、お話しを聞きました。

焼肉のタレは、それだけで料理の味が調うので、忙しい時にも料理を簡単においしく仕上げる調味料として重宝しています。焼肉の漬けダレだけでなく、たとえば、ローストポーク風料理にも使います。豚のかたまり肉とタレを、鍋に入れて弱火で蒸し焼きにし、仕上げに煮詰まったタレを強火で一気に絡めるだけで、簡単においしい一品に仕上がります。肉野菜炒めでは、タレをしっかりもみこんでやわらかくしたこま切れ肉を香ばしく焼き、これを野菜と炒め合わせたりもします。同じ料理でも、調理過程でタレを使うタイミングが異なれば肉の味や風味、食感が大きく変化します。その変化に“科学”を感じながら、調理を楽しんでいます。

焼肉のタレは“肉をやわらかくジューシーに焼き上げるための調味料”と思っています。タレによるメイラード反応で速やかに焼き色がつくため、焦げ過ぎないように早めに肉を鍋から引き上げることが、結果的に肉の焼き過ぎ防止につながるのです。まさに「65℃焼き」の秘策です。私にはダイエットが気になる年頃の娘がいるため、ダイエットに効果的な低脂肪高たんぱくの鶏のむね肉やささみをよく焼きます。これらの肉は脂肪がほとんど無いため、少しでも焼き過ぎるとパサついてしまうのが難点。けれども、焼肉のタレをもみこんで焼けば、表面にはタレの効果で香ばしい焼き色とカリっとした食感が備わり、内部はしっとりジューシーに仕上がります。

また、焼肉のタレは、野菜をたっぷり食べるための調味料であるとも思っています。“焼肉”のタレだからといって、“焼肉だけ”にしか使えないタレではありません。卵と野菜の炒め物の味つけに、グリル野菜の漬けダレに、さらにゴーヤやタマネギなどの個性的な野菜の生野菜サラダドレッシングの隠し味にも、焼肉のタレを使います。

日々の食生活の中に上手に焼肉のタレを取り入れることができれば、料理のバリエーションも増え、おいしさもアップすることでしょう。

佐藤秀美 (学術博士(食物学)・日本獣医生命科学大学非常勤講師)

横浜国立大学卒業後、企業で調理機器の研究開発に従事。その後、お茶の水女子大学大学院修士課程、博士課程を修了。専門は食物学。大学で非常勤講師を務めるかたわら、東京栄養食糧専門学校を卒業し、栄養士免許を取得。

<主な著著>
『おいしさをつくる「熱」の科学―料理の加熱の「なぜ?」に答えるQ&A』 柴田書店
『栄養「こつ」の科学―カラダと健康の疑問に答える』 柴田書店
『おいしい料理が科学でわかる 日本型健康食のすすめ』 講談社   他多数
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